ここでは特徴的な症例について、一部をご紹介いたします。
※手術の写真を掲載しておりますので、苦手な方はご注意ください。
小滝橋動物病院グループ全体の外科症例件数については、>こちらをご参照ください。

猫で最も多い心臓病 肥大型心筋症

肥大型心筋症
◎肥大型心筋症とは
 肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy:HCM)とは左心室の心筋が全体的または一部分厚くなり、左心室内腔が狭くなる(左心室容積の減少)ことで、心臓のポンプ機能に異常を生じてしまう心筋症です。

◎病態
肥大型心筋症は「内腔の狭小化を伴う著明な左室肥大を形態学的特徴とし、心室充満に対する抵抗性の増大、すなわち拡張機能障害をきたす心筋症」と定義されています。
左心室心筋の肥厚により、左心室内腔が狭くなってしまうと1回の拍動で心臓から駆出される血液量が減少します。
身体はこれを補うため、心拍数を上昇させて全身の血液循環を保とうとします。
しかし、病態が重度になると、循環をうまく保てなくなり、心不全の病態に陥ります。
病態が重度の場合、うっ血性心不全による胸水貯留および肺水腫、左房拡大の重症化に伴う動脈血栓塞栓症(ATE)のリスクおよび心筋虚血による不整脈を認めます。
末期には拡張機能の低下に加え、収縮機能も低下し、拡張相肥大型心筋症(DHCM)へと移行します。
◎病因および発症年齢
 猫の心筋症の約60%が肥大型心筋症であり、メインクーン、ラグドール、アメリカン・ショートヘア、ペルシャ、ノルウェージャン・フォレストキャット、スコティッシュ・フォールドなどの純血種に好発とされています。
中でもメインクーン、ラグドール、アメリカン・ショートヘアは遺伝的に好発とされています。またその他の純血猫種でも遺伝性な素因があると言われていますが、確定的な原因はわかっていません。
 診断時の年齢は平均4.8歳〜7歳で、雄に圧倒的に多く発生し、その割合は80%以上です。
さらにメインクーンやラグドールは若齢時に発症することが知られており、診断年齢中央値は2歳です。
◎病歴および症状
肥大型心筋症の猫の多くは軽度〜中等度では無症状で推移することがほとんどです。
動物病院に来院した際に、聴診で心雑音や心音異常の聴取により発覚する、あるいは無症状のまま推移した後、重篤な症状(食欲不振、呼吸が早い、努力呼吸、咳、パンティング、後肢麻痺・疼痛、チアノーゼ、失神、突然死等)により発覚することがほとんどです。

◎診断
心筋症において生前の確定診断は困難です。確定診断には死後病理組織検査が必要になります。
生前の診断には心臓超音波検査にて心筋肥大の存在の確認および心筋肥大を引き起こす他の病態(腎性や特発性の高血圧や甲状腺機能亢進症など)の否定が重要となってきます。
心臓超音波検査では心筋壁の肥厚、心房心室の拡大、収縮期前方運動(SAM)、左室流出路の閉塞、血栓のリスク等を評価します。
心筋壁厚の評価は、心室が拡張したとき(拡張末期)の厚さが6mm以上で心筋肥大とされていますが、脱水の影響により正常な心臓でも厚さが6mm以上となる場合もあります。
つまり、心筋肥大=肥大型心筋症とはならないため、その他の検査を含め、総合的に評価します。
その他の検査として、胸部レントゲン検査、血圧測定、血液生化学検査、心電図検査などがあります。
また、左心房拡大の有無も心臓超音波検査においては重要になります。
左心房の拡大の有無は心不全や動脈血栓塞栓症(ATE)のリスクと相関しており、極めて重要な所見です。
左心房と大動脈の比(左房径/大動脈径比:LA/Ao)が1.5以上で左房拡大とされています。
2020年4月に米国獣医内科学会(ACVIM)が猫の心筋症における診断や治療に関するガイドラインを発表し、「犬の慢性心臓弁疾患の診断と治療のガイドライン」と同様にステージ分類を提唱しました。

stage A:心筋症の素因があるが、検査上心筋症が疑われない猫

stage B:心筋症はあるが臨床症状のない猫

stage B1 うっ血性心不全(CHF)または動脈血栓塞栓症(ATE)のリスクが低い猫

stage B2 CHFまたはATEのリスクが高い猫
※左心房の拡大が重度になる程、CHFやATEのリスクが高くなります。stage B1とB2の病期分類は左心房拡大の有無、左心房や左心室の収縮機能や左心室肥大などの要因を考慮する必要があります。

stage C:CHFまたはATEの兆候を示した猫
※治療によって臨床症状がなくなったとしてもステージCに分類されます。

stage D:治療に抵抗性のCHFの兆候がある猫

◎治療
肥大型心筋症は外科治療や内科治療で根治を目指すことは不可能です。左心不全、うっ血性心不全による胸水・肺水腫や動脈血栓塞栓症に対する内科治療が推奨されます。
国獣医内科学会(ACVIM)の「猫の心筋症における診断や治療に関するガイドライン」に基づき、各ステージごとで下記の内科治療が推奨されています。
stage A:治療の必要なし

stage B1:一般的に治療は推奨されないが、左心房拡大の有無の確認のため、年1回の心臓超音波検査が推奨される

stage B2:ATEのリスクが存在する場合、抗血栓薬による血栓予防が推奨される。また、臨床症状と病気の進行を把握するため、定期検査を行う必要があるが、検査による過度なストレスの影響も考慮に入れる必要がある。
定期検査を行う場合、動物の取り扱いには十分に注意を払い、ストレスとなりうる刺激を最小限に抑えることが重要となる。
病態により、上記の抗血栓薬やβブロッカー薬およびACE阻害薬の投与が必要となる。
飼い主様にはご自宅で、安静時または睡眠時の呼吸数を測定することをお勧めする。

stage C:
●急性非代償性心不全
肺水腫または胸水を伴う猫には利尿剤の投与や胸水抜去を検討する必要がある。
さらに、呼吸困難のある猫には酸素補給(酸素室)が推奨される。また、心拍出量が低い兆候(低血圧、低体温および徐脈等)の猫では強心剤の投与を検討する。

●慢性心不全
利尿剤や抗血小板薬の投与が推奨される。
2〜4ヶ月間隔または必要に応じて定期的な検査を推奨する。

stage D: 利尿剤の変更や追加を検討する。
拡張相肥大型心筋症に移行した場合、強心剤の投与が推奨される。
心不全による心臓悪液質に陥っている場合、ナトリウム摂取量の制限よりもカロリー摂取量を優先とし、自宅での体重測定および定期的に病院での正確な体重測定を行う。

◎予後
肥大型心筋症の猫の平均生存期間は732日と比較的予後は良好です。しかし、うっ血性心不全や動脈血栓塞栓症がある場合、予後は短くなります。臨床症状が認められない場合の生存期間は1129〜1830日ですが、臨床症状が認められる場合、うっ血性心不全では92日、動脈血栓塞栓症では61日とされています。 近年では上記の他に、予後が悪くなる要因として、ラグドールであることや左房拡大が認められることが報告されています。
◎症例
今回ご紹介する症例は、6歳のメインクーン(♂)で食欲の低下および呼吸促迫を主訴に来院されました。
来院時にパンティング(ネコにおいては異常)が認められ、聴診において心拍数192回/分、心雑音は聴取されませんでした。
血液生化学検査、甲状腺ホルモン検査、心電図検査において異常は認められませんでした。
血圧測定検査において、最高血圧144mmHg、最低血圧68mmHg、平均血圧94mmHgであり、高血圧は認められませんでした。
胸部レントゲン検査において、胸水の貯留が認められました。
心臓超音波検査において、左心室心筋壁の肥厚(>6mm)、左心房拡大、左心房内のもやもやエコーを認めました。
以上より、肥大型心筋症(ACVIM HCM stage C)と診断し、βブロッカー薬、利尿剤、抗血栓薬の内服を開始しました。
その後は、胸水の貯留や血栓症もなく、良好な結果をたどっております。

◎最後に
肥大型心筋症は猫の心筋症の中で最も一般的です。
軽度〜中等度までは無症状で推移することがほとんどのため、早期発見・早期治療が最重要となってきます。
そのためにも年1回病院に来院して、聴診や健康診断を兼ねた精密検査を行うことをお勧めします。
猫の肥大型心筋症の他にも、拘束型心筋症、拡張型心筋症、分類不能型心筋症および不整脈源性右室心筋症に関してお困りのことがございましたら、お気軽に当院へご相談ください。

東京都豊島区南長崎2-2-1
TEL 03-3565-6596
Email: otakibashi_ahp@yahoo.co.jp

目白通り高度医療センターのトップページへ